フレイルについて
2021/12/27
フレイル・サルコペニアについて
日本人の平均寿命は、厚生労働省の「簡易生命表(令和2年)」によると、2020年の日本人の平均寿命は男性が81.64歳、女性が87.74歳で2019年と比較して男性は0.23年、女性は0.29年上回り過去最高を更新しています。その一方で、「健康寿命」は、令和元年で男性72.68歳、女性75.38歳となっています。比較する年は異なりますが、約10年前後の差があります。この健康寿命の妨げとなるのが以前、このブログにも掲載したロコモティブシンドロームであり、フレイル、サルコペニアです。
フレイルとは
「フレイル」とは「Frailty(虚弱)」を日本語に訳したものです。
簡潔に言うと「健康」と「要介護」の中間にある状態のことを指します。高齢者の方々は急に要介護状態にはなりません。徐々に身体機能の低下や認知機能の低下、活動量の低下により結果的に転倒や骨折を機に要介護状態となってしまいます。この過程にある段階を「フレイル」と呼びます。
原因
フレイルの原因としては、身体的要素、精神・心理的要素、社会的要素の3つになります。
1. 身体的要素
身体的要素については「筋力低下」「栄養不足」「運動器の障害」が該当します。
2. 精神・心理的要素
「認知症」や「うつ」などの進行によって意欲が低下したり人との交流が減少したりすることも、フレイルを悪化させると考えられます。体力低下による意欲低下なども含まれます。
3. 社会的要素
「独居」や「閉じこもり」などの社会的要素です。孤独になることで精神的にも悪影響があるほか、認知機能の低下や運動機会の減少を招きます。
サルコペニアとは
高齢になるに伴い、筋肉の量が減少していく現象のことです。25〜30歳ごろから進行が始まり生涯を通して進行します。筋線維数と筋横断面積の減少が同時に進んでいきます。主に不活動が原因と考えられていますが、そのメカニズムはまだ完全には判明していません。
サルコペニアは、広背筋・腹筋・膝伸筋群・殿筋群などの抗重力筋において多く見られるため、立ち上がりや歩行がだんだんと億劫になり、放置すると歩行困難にもなります。そのため、老人の活動能力の低下の大きな原因となっています。筋力・筋肉量の向上のためのトレーニングによって進行の程度を抑えることが可能です。歳を重ねる毎に意識的に運動強度が大きい運動(レジスタンス運動)を行うことが大切です。頻繁に躓いたり、立ち上がるときに手をつくようになると症状がかなり進んでいると考えられ、積極的にトレーニングを行うことがその後の生活の質的な安定に大いに役立ちます。特に躓きは、当人や周囲が注意力不足のせいだと思い込んでいることが多いため、筋力の低下が原因と気付かない場合があり、注意が必要です。
原因として、加齢以外にも、エネルギーやタンパク質などの摂取不足、疾患(骨折や糖尿病など)があります。
低栄養、フレイル、サルコペニアの連鎖(フレイルサイクル)
フレイルの進行には身体的要素、精神・心理的要素、社会的要素が互いに影響し合うことが深く関係しています。3要素による悪影響が「フレイルサイクル」です。
フレイルとロコモティブシンドローム、サルコペニアの関係
「フレイル」と合わせて、前回ブログでも記載した「ロコモティブシンドローム」、上記した「サルコペニア」もフレイルに含まれる状態です。
前回も記載したので簡潔にまとめると「ロコモ」は運動器が衰えて移動能力が低下している状態です。
上記したように、加齢や疾患などによる筋肉量低下、筋力低下が起こることを「サルコペニア」と言います。
フレイルの診断方法
フレイルの診断方法に関しては、統一の基準はまだありません。
しかし主要な方法として「日本版CHS基準(J-CHS基準)」と基本チェックリストがあります。
J-CHS基準
項目 |
評価基準 |
体重減少 |
6ヶ月間で2kg以上の体重減少があった |
筋力低下 |
握力低下(男性:26kg未満、女性:17kg未満) |
疲労 |
ここ2週間わけもなく疲れたような感じがする |
歩行速度の低下 |
通常歩行速度以下(性別・身長問わず毎秒1.0m未満) |
身体活動の低下 |
軽い運動、体操、および定期的な運動、スポーツをしていない |
5項目のうち3つ以上に該当する場合をフレイル、1〜2項目のみ当てはまる場合はフレイル予備軍と判定します。ただ握力や歩行速度の測定が必要なため、気軽に判定しづらいことが難点です。
基本チェックリスト
厚生労働省は、比較的チェックしやすい新たな基準「基本チェックリスト」を提示しています。介護が必要となるリスクが高い状態を早期に発見し、必要な予防や対策をとるために考案されたものです。地域包括支援センターでの介護予防のチェックなどに使用されています。
基本チェックリストの結果が下記のいずれかに該当する場合は、介護保険の地域支援事業の対象となります。心身機能が低下していることが想定され、フレイルの状態である可能性が高いのです。
・1〜20までの20項目のうち、10項目以上に該当する人
・6〜10までの5項目のうち、3項目以上に該当する人
・11、12の2項目にどちらも該当する人
・13〜15までの3項目のうち、2項目以上に該当する人
セルフフレイルチェック
より手軽にフレイルの可能性をチェックできる方法があります。東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授が考案した「指輪っかテスト」と「イレブンチェック」です。
指輪っかテスト
両手の親指と人差し指で指輪っかを作るようにして、利き足ではない方のふくらはぎの最も太い部分を囲んでみましょう。ふくらはぎのほうが太く指が届かない、またはちょうど囲める場合は筋肉量が十分あると考えられます。反対に、指とふくらはぎの間にすき間ができる場合は、筋肉量が減少している可能性が高いのです。
イレブンチェック
上記URLのチェックリストをもとに、質問項目の1、2と3~11の2つのパートに分類して判定します。1、2の項目でどちらも「はい」と答えた方は、しっかりと食習慣を意識している方です。「いいえ」があった場合は栄養が不十分な可能性があるため、もう少し食事に気を配るようにしましょう。3~11の9項目中、青色の回答が6個以上であれば筋肉量を維持できている可能性が濃厚です。反対に0~5個の場合は、筋力の低下や健康面への影響が懸念されます。
※参考:東京大学 高齢社会総合研究機構 飯島研究室
「指輪っかテスト」と「イレブンチェック」はあくまでも簡易的なチェックですが、フレイルの兆候に早めに気づくことが肝心です。「もしかしてフレイルかもしれない」と感じた方は、ぜひ積極的に予防に取り組みましょう。
フレイル予防
フレイルは予防が大切です。介護保険の適用状態に進まないようにできるだけ早い段階から予防しましょう。フレイル予防に大切な6つのポイントがあります。
持病のコントロール
持病の悪化は、フレイルが深刻化する大きなきっかけとなります。高齢者の多くの方が糖尿病・高血圧といった生活習慣病や心臓病など、何らかの疾患を患っているものです。
疾患が悪化すると「日常生活に悪影響をもたらします。結果的に身体の機能が低下したり、認知機能が衰えたりする可能性があるのです。日頃から体調には気を配り、持病には適切な治療を受けるようにしましょう。また治療が難しい場合には、現状よりも悪化させないために医師からアドバイスを受けましょう。
※糖尿病との関連性
糖尿病は脳梗塞や心筋梗塞といった血管系の病気に起因するといわれ、要介護状態の原因の1つでもあります。また、糖尿病の治療で大切なことは生活習慣の改善といわれており、フレイル同様に食事と運動が重要な項目となります。
感染者予防
持病の有無に関わらず気を付けたいのが、新型コロナウイルスやインフルエンザ、肺炎などの感染症の予防です。フレイル状態の方は免疫が低下していることが多く、通常以上に感染症にかかりやすくなっています。さらに感染症をきっかけに療養生活や入院が続くと、心身機能が著しく低下する場合もあるのです。なかには、そのまま寝たきりの生活になるというケースもあります。本人だけではなく家族も含めて「こまめに手洗い、うがいをする」「マスクを着用する」「予防接種をする」といった対策を徹底しましょう。
※コロナフレイル
2020年1月より新型コロナウイルスの報道が徐々に増えて何度も緊急事態宣言が繰りかえされ、いつも通りの生活が過ごす事ができない日々が増えています。そんな中、高齢者の方は重症リスクが高いため自粛生活が長期化し生活不活発を基盤として、心身機能が明らかに低下している現状もあります。これがコロナフレイルともいわれています。
コロナ感染流行初期には、都内自治体においては40%強の高齢者に外出頻度の著明な低下を認め、なかでも14%の方が週1回程度の外出頻度まで低下していました。並行して、食生活の乱れや気持ちが塞ぎがちになり、いわゆる鬱傾向に傾いてしまった方もおられます。また、従来の通いの場や集うことのできる企画が全て中止されたことにより、人とのつながりや地域社会との交流も顕著に低下してしまい、一部には認知機能まで低下した方々もおられます。おしゃべりの機会が減ることにより、滑舌の低下を認めたデータもあります。
マスメディアの情報は大切ですし、新型コロナウイルスに感染しないためには必要な情報もあります。ただ過度な情報もあるため、まずは徹底的に三密の回避と手洗いうがいを基本として生活をしましょう。
運動療法
筋力を維持するためには、やはり運動は必要不可欠です。ただし、運動といっても負荷の大きいものを無理にする必要はありません。
具体的な運動内容としては、有酸素運動(ウォーキング)、水泳、サイクリング、などがあります。時間は1回20分以上をできるだけ毎日行い、週の合計が150分以上を目安とします。仕事や家事で運動時間がなかなか作れない方も下記の活動量はウォーキングの活動量に近いため運動時間として換算できます。
(1) 立ち仕事
(2) お孫さんと遊ぶ
(3) ガーデニング
(4) 畑仕事
筋力運動には体幹を鍛える腹筋や背筋運動、下肢を鍛えるスクワット運動や踵上げ運動などがあります。具体的な運動内容は「ロコモ」に記載しています。
栄養療法
フレイルサイクルの項目でも触れたように、低栄養は筋力低下を招く大きな要因です。毎日の食事を通して必要な栄養素をしっかり取ることで、筋肉や骨を強くすることができます。まずは、1日3食しっかりと食べましょう。厳しい方は回数を分けて1日に必要な栄養量を摂取しましょう。食事は「主食」「主菜」「副菜」「汁物」と、バランスの取れた献立を心がけましょう。
口腔、嚥下機能ケア
食べることに関連して「口腔機能」「嚥下機能」を維持することも重要です。「歯が減ってしまってうまく噛めない」「飲み込みづらい」という状態を放置すると、食べ物を正しく噛んで飲み込めなくなるリスクがあります。場合によっては誤嚥性肺炎を引き起こしたり、食事がおっくうになって低栄養になったりする可能性もあるのです。食事のときはよく噛むことと姿勢を意識し、何か異変を感じたら早めに歯医者などを受診しましょう。適切なケア(歯磨きなども)で、口腔・嚥下機能を維持することが大切です。
社会との繋がりを持つ
最後に「社会的要素」として、誰かと繋がる機会を積極的に持ちましょう。高齢になると独居や夫婦二人暮らしなど、日常的に関わる相手が少なくなりがちです。人との関わりが減ると、精神的に孤独になり身体面にも悪影響をもたらします。うつが認知症を悪化させるという研究もあり、認知症予防の観点からも社会的つながりを持つことは重要です。
最後に…
近年日本の一般高齢者のうちフレイルに該当する方が約10%、サルコペニアは10〜20%とされており、いずれも年齢を重ねるごとに割合が多くなっています。そのため予防は大切です。そして予防に関しては全てが繋がっています。栄養を取れないと筋力が落ちます。筋力が落ちると動けなくなります。しっかりと座れなくなります。座れないとお食事の際に誤嚥する可能性があります。こういったように全て繋がっています。そして大きく無理はする必要はなく、日常生活で少しずつ体を動かし、食事をとりしっかりと寝る、まずはこういった日常生活をしっかりと見つめて、そこに少しだけ運動を加えて行きましょう。
理学療法士 牧 将平