上腕骨近位端骨折について
2022/03/21
高齢者には四大骨折といわれる代表的な骨折があります。今回は上腕骨近位端骨折についてです。前回も説明しましたが四大骨折とは、橈骨遠位端骨折、上腕骨近位端骨折、脊椎圧迫骨折、大腿骨頸部骨折です。これらは女性に多く、これらのほとんどが転倒時にバランスを崩して手を地面に着いた場合や尻もちを着いた時に起こります。
上腕骨位端骨折ついて
上腕骨近位端骨折とは、上腕骨の肩関節に近い部分に生じた骨折です。骨折全体の中で占める割合としては多く、5%ほどであるとの報告もあります。また、おおよそ80%が転位の少ない骨折で、骨膜が比較的に保たれ、不安定性は低いと言われています。
発症機序は交通事故やスポーツなどがきっかけとなることもありますが、骨粗鬆症を罹患されていることが多く、高齢者に多い骨折です。
第1選択肢として、保存的治療を選択しますが骨折の程度が強く、骨転位が大きい状況(骨のずれが大きい状況)では、手術療法が選択されます。
原因
80歳代の高齢者に多く、手を伸ばした状態で地面に着いたり、肩の外側から直接転倒した場合に上腕骨近位端骨折を起こすことが多いです。また、高エネルギー外傷である交通事故やスポーツなども原因となることもあります。
そのほか、腫瘍や感染症などの骨が脆弱の状態で弱い外力でも病的骨折を起こすことがあります。上腕骨近位部には様々な筋肉があり、これらの牽引力により、分断された骨が正常な位置からずれて転位を起こすことがあります。
症状
外傷受傷が多く、受傷後より急速に痛みと上肢(腕)の挙上困難を認めるようになります。見た目の変化として、上腕部の変形や腫れがみられることもあります。また、出血を起こし、数日経過してから皮下出血ができることがあります。骨折部位によっては、腋窩神経損傷や腋窩動静脈損傷などを発症する可能性もあります。また骨折後の転移度合いで上腕骨頭壊死の可能性もあります。
検査
骨折が疑われる際には、単純レントゲン写真撮影が行われます。複数箇所に骨折を生じたり、脱臼を併発したりすることがあるため、一方向からの撮影ではなく、複数の方向からレントゲン写真を撮影し、評価します。また、より詳細な評価を行うために、CTやMRIが行われることもあります。MRIでは、筋肉や神経の障害の程度を評価します。
治療
骨の転位が大きくない場合には保存的療法が選択されますが、転位が強い場合には手術が選択されます。骨癒合には約7週間程度必要で、この安静期間中に物を取ろうと腕を捻る動作など行うことで転移が増強される場合もあります。
<手術療法>
転位が強い場合や、複数箇所の骨折がある場合などには手術が選択されます。
手術は、プレート固定術や髄内定固定術、人工骨頭置換術などが症状に合わせて選択されます。術後経過に合わせて運動負荷をかけてリハビリテーションを行うことは必須です。
・リハビリテーション
術後は仮骨形成が始まる約3週間まで固定を行います。固定期間中は、肩関節以外の肘関節や手関節、手指の運動を行い術後の腫脹(腫れ)の軽減と握力の低下を起こさないように運動を実施します
固定期間が終了すると徐々に自動運動(関節可動域運動)や筋力運動などを行なっていきます。
<保存療法>
三角巾やバストバンドを用いて腕を固定して、転位の予防や安静を図ります。この状態で骨癒合が見られるまで経過観察を行いつつ、経過に合わせてリハビリテーションを行います。
具体的には転移が少ない骨折で嵌入型骨折であれば三角巾のみの固定、転位が存在しても整復後に安定している場合は、三角巾やストッキネットヴェルボー固定を行い、約2〜3週間安静位をとります。
・リハビリテーション
保存療法では固定材料がないため、急激な回旋運動(捻り運動)や荷重には特に気をつけ、骨癒合に合わせて、自動介助運動(反対の手で骨折側の腕を上げる運動)などを実施し低負荷で筋力運動などを実施していきます。
予後
上腕骨近位端骨折は、挙上方向へ全可動域の改善が難しい例や可動域改善が遅れることで二時的に拘縮が起こり結髪動作や結滞動作が獲得できない場合もあります。
そのため、安静期間中に腫脹や浮腫などの阻害因子や骨癒合に合わせて可動域運動や筋力運動を実施していくことで予後が変化してきます。
最後に
転倒は骨折以外に頭部外傷なども起こります。その頭部外傷を避けるために、反射的に手を出した際に骨折する流れになります。転倒しないようにすること、転倒しても骨折しない体を作ることが大切です。定期的な運動や栄養、睡眠をしっかりとって予防しましょう。
理学療法士 牧 将平