外反母趾について
2022/09/11
概説
成人の約30%に認められるといわれる外反母趾。
母趾(足の親指)のつけ根が外側に飛び出し、その先が小指側に曲がってしまった状態です。
つまり、母趾がMTP関節で内側(小指側)に曲がり、HV角が20度以上になると外反母趾と診断されます。
※HV角とは
HV角(Hallux vaigus angle)のことをいい専門用語となりますがX線で母趾基節骨骨軸と第1中足骨骨軸のなす角度で、母趾の外反変形の程度を評価する際に用いる角度です。
HV角が20度~30度は軽度、30度~40度が中等度、40度以上が重度に分類されます。
女性に多いため、ハイヒールが原因と思われがちですが、男性でも外反母趾になる可能性はあります。
また、ハイヒールを毎日履いていても外反母趾にならない女性もいます。
生まれつきの足の形と生活習慣が組み合わさって一定の条件を満たした場合、外反母趾を発症する可能性があります。
疼痛がないからといって放置すると、変形が進行することはあっても自然治癒することはありません。
要因
外反母趾の要因には、生まれながらの解剖学的な特徴である内的要因と生活習慣が大きく関わる外的要因があります。
内的要因
外反母趾の発生頻度を男女別で調べてみるとその比は1:10と圧倒的に女性に多いことが知られています。
これは女性の方が男性より関節が柔らかいことや、筋力が弱いことなどに起因している可能性があります。
したがって女性であることが内的要因の1つと言えるかもしれません。
人間は四足歩行から二足歩行へと進化の過程で足のアーチ構造を獲得しました。
アーチ構造には縦アーチ(内側、外側)、横アーチがあります。
役割として踏み出す動力を産み出す剛力作用、接地の衝撃を緩和する衝撃吸収作用、片足立ちでの安定作用があります。このアーチ構造は足裏の足底腱膜という強靭な線維束によって作られます。
ただ、内側縦アーチや横アーチを構成する後脛骨筋という筋肉が機能不全を起こしている患者様がおられます。
その結果、内側縦アーチがくずれているため扁平足、横のアーチが崩れるも開張足となります。
扁平足や開張足は母趾のつけ根(MTP関節)にストレスがかかり外反母趾になりやすいです。
また、足の形として母趾より示趾(足の人差し指)の方が長い形をギリシャ型、母趾の方が長い形をエジプト型、同じ長さの形をスクエア型(正方形型)と分類されます。日本人の場合はそれぞれ25%、70%、5%の比率と言われています。
最多を占めるエジプト型は、体重がかかったときに足全体の均衡を保とうとして母趾のつけ根(MTP関節)にねじれた力がかかりやすく、その力を逃すために関節が内側に変形し外反母趾となってしまうことがあるので注意が必要です。
外反母趾の外的要因
外反母趾への外的要因としては、靴の不適合が最も大きいと考えられています。また、靴は裸足よりも足趾(足指)活動の制限すると報告されています。
そのため、靴と不適合である幅の狭い靴では鶏眼(魚の目)や胼胝(タコ)、外反母趾が増え、かかとの高い靴は胼胝と外反母趾が増える可能性があると考えることができます。
しかし、日本のガイドラインでは内的、外的要因を含め、現時点で外反母趾の原因として確定できるものはないとされています。
※ちなみに…
ハイヒールを履くと、足底にかかる体重は前足部に集中します(4.0cmヒールで約1.5倍、9.0cmヒールで約3倍)。その結果、足は横に広がり開帳足になります。
しかしハイヒールの先は細くなっているため母趾は付け根で“くの字”に曲げられ外反変形を生じ、小趾は逆に内反変形を生じます。
検査・診断
外反母趾は、視診でも可能ですがその状態を評価するためにX線検査(レントゲン検査)が行われます。
X線検査では、母趾の外側への屈曲の程度を評価します。また、関節の破壊などがないかを調べ、治療方針を決定していきます。
関節リウマチや関節が緩みやすくなるような先天性の病気がないかを調べるために、内科学的な血液検査や画像検査などが行われることもあります。
治療
外反母趾の治療方法は保存療法と手術療法があり、保存療法には①靴指導、②運動療法、③装具療法、④薬物療法があります。
保存療法
① 靴指導
痛みの軽減および変形の進行を抑えるため、母趾のつけ根がフィットして指先はゆったりとした形で、ヒールは低く、柔らかい素材の靴が推奨されています。
またアーチを補強するような形のインソール(中敷き)を併用することも有効です。
市販のインソールが合わない場合、医師の処方の下、義肢装具士がオーダーメイドで作る方法もあります。
② 運動療法
運動療法は、足関節(足部)には様々な関節があり外反母趾となっている場合、可動域が制限されている関節がありますので、それらを動かす事が大切です。またアーチ構造を改善する筋力運動も大切です。
足関節を内側と外側に捻る運動で後脛骨筋と長腓骨筋という筋肉を鍛えます。
この運動の効果で横アーチを改善する事が可能となります。
横アーチを改善する運動をした後に足趾でグー、チョキ、パー運動を行います。
それぞれの運動でアーチ構造を構成する筋肉に刺激を入れていきます。その結果、徐々にアーチ構造が改善する可能性があります。
特に母趾外転筋や小趾外転筋という筋肉は縦アーチに大切な筋肉です。
③ 装具療法
疼痛除圧パッド、歩行時や夜間に使用する矯正用装具、靴指導でも述べたアーチを補強するインソールの3つに分けられます。
いずれも痛みを軽減する効果はありますが、使用を中止すると痛みが再燃する可能性があります。
また矯正用装具はHV角を3~7度程度であれば改善する可能性があります。
④ 薬物療法
湿布、軟膏、クリームといった消炎鎮痛剤入り外用薬は他の保存療法と併用することによって痛みを軽減させることができます。
手術療法
変形が進み保存療法では痛みが抑えきれない場合は、手術療法の適応となります。
術式は多数あり、変形の程度や足全体の形、体形、年齢、関節リウマチなどの合併症の有無、仕事内容などを考慮して最適な術式を選択します。
最も一般的なものは骨切り術といって、中足骨の一部を切除して変形を矯正する方法ですが、切除の仕方もいろいろあります。それぞれメリット・デメリットがあります。
おわりに
外反母趾は初期に治療を開始すれば保存療法のみで日常生活を快適に送ることも可能です。
放置すると変形が進行して疼痛が増悪し、日常生活での不便もあり手術の必要性がでてきます。
また外反母趾と思っていたら関節リウマチなど他の病気が原因という可能性もありますので、母趾の変形・痛みを感じたら東灘区おかだ整形外科に相談へ来てください。
理学療法士 牧 将平