前十字靭帯損傷、断裂について
2022/12/01
概要
スポーツによる膝のケガには、大きく分けて骨折・靱帯損傷・半月板損傷・軟骨損傷の4つがあります。
その中でもよく見られるのが靱帯損傷と半月板損傷です。
近年では、積極的にスポーツに取り組む子どもとそうでない子どもの二極化傾向が指摘されており、運動不足による体力・運動能力の低下に加えて、過度な運動によるスポーツ傷害のリスク増加も懸念されています。さらに海外の文献では、1つのスポーツに特化するとケガのリスクが2倍以上になる可能性が示唆されています。
前十字靱帯損傷とは、膝関節に過度な回旋(ひねり)が加わることによって、前十字靱帯にストレスが加わる外傷のことです。
前十字靱帯は強固な靱帯であるため、基本的には損傷を受けることはありませんが、スポーツ動作中などで膝関節に強い回旋ストレスが加わると損傷もしくは断裂が生じることとなります。前十字靭帯の発生率は、男性に比べ女性のほうが2〜3倍高いと考えられています。
前十字靭帯損傷や断裂は非常に大きな怪我です。今年(2022年)にもスポーツ選手が受傷されていました。
今回は前十字靭帯損傷、断裂について記載したいと思います。
膝関節構造と前十字靭帯の機能とは
膝関節は大腿骨と脛骨、膝蓋骨の3つの骨で構成されており2つの関節を構成しています。その中で膝関節の安定性を高めるために前十字靭帯、後十字靭帯、内側側副靱帯、外側側副靱帯の4つの靱帯で関節を支えています。またそれ以外の組織として半月板や筋肉が存在しています。
内側、外側側副靱帯は膝関節の両側にあり、膝関節の左右への安定性を高めます。一方で前、後十字靱帯は大腿骨と脛骨の間で交差しており、前十字靭帯は脛骨が前方へ移動しないように後十字靱帯は逆に脛骨が後方へ移動しないように抑制しています。また、十字靭帯は捻った方向に対して動きすぎないような抑制(回旋方向への安定性)する役割もあります。 つまり、この靭帯を損傷すると、膝は前後方向および回旋方向の2つの方向に弛くなります。
原因
スポーツによる外傷にて受傷が多くラグビーやアメリカンフットボール、柔道など相手との接触などが原因となる接触型損傷(交通事故も)とサッカーやバスケットボール、バレーボール、ハンドボール、スキーなどにおける着地時やターン動作、ストップ動作にて生じる非接触型損傷に大別されます。
非接触型損傷に関しては、接触型と比較して約2倍多く、女性に多く生じます。
症状
症状としては、受傷時に断裂音を感じたり、膝が外れた感じ(脱臼感)がしたり、激しい痛みを伴うこと、徐々に膝関節が腫れて曲りが悪くなったりします。膝の関節内に出血が見られることは、大きな特徴の一つです。
また、受傷後は徐々に症状が改善し数週間で歩けるようになりますが、膝の不安定感や、膝が抜けるような感じ(膝くずれ)が生じることもあります。
部分的な損傷で膝くずれをほとんど生じない方もいますが、損傷形態や関節内環境から自然治癒がほとんど見込めないため100%の状態にまで修復することは極めて難しいと考えられています。そのため、前十字靭帯損傷に伴う不安定感による機能障害は、日常生活動作ではほとんど生じないことが多いです。一方で、不安定性が残存したままジャンプ着地動作やステップ動作、ターン動作を含むスポーツ活動を行うと膝くずれを生じてしまいスポーツパフォーマンスを十分に発揮できなくなります。
スポーツ活動や日常生活動作でゆるさを感じたり、膝くずれを起こしてしまった場合、そのまま放置すると関節内の半月板や軟骨を損傷してしまうリスクが高くなります。将来的に変形性膝関節症になるリスクを高めます。
検査・診断
診断の基本は画像検査です。一般的には、骨折の有無を調べるためにX線検査を行いますが、前十字靱帯はX線で描出することはできません。
画像診断としてはMRIが有用であり、その診断率は90%以上とされています。また、MRIは他の靭帯損傷、半月板損傷や関節軟骨の状態も詳しく調べることができるので前十字靱帯損傷の確定診断に適した検査となっています。
治療
前十時靭帯損傷の治療は保存療法と手術療法があります。以下に適応を記載します。
・保存療法
①スポーツ活動を行わず、日常生活動作において不安定感のない例
②レクリエーショナルレベルのスポーツを希望し、なおかつ手術を希望しない場合、
段階的にスポーツ復帰をさせていっても膝くずれが生じない例
③骨端線閉鎖前の若年者、もしくは活動性の低い高齢者
④半月板損傷の合併がない例
・手術療法
①ジャンプ着地、ステップ、ターン動作を含むスポーツ活動への復帰を望む例
②日常生活動作においても不安定性を生じる例(歩行、階段昇降など)
③修復の適応となる半月板損傷合併例
患者様の状態や環境に応じて、方針は大きく変わります。
しかし、上記したように前十字靭帯が損傷、断裂すると基本的には修復する可能性は低いです。
将来的なことを考えると変形性膝関節症を罹患する可能性は否定できません。手術を推奨するわけでもなく否定することでもなく将来を踏まえて方針を検討していくことが大切です。
術後リハビリテーションとしては、術者や術式によって変わります。
おおよそとして、術後数日より可動域訓練を開始し、術後1ヶ月程度で全荷重とします。ジョギングは3ヶ月以降に開始し、競技復帰は約6〜8ヶ月を目標にしていきます。いずれも個々の患者様の回復度やコンディション、競技レベルなどを含めて、段階的に進めていきます。
終わりに
今回は前十字靭帯損傷、断裂について紹介しました。日常生活レベルでは生じない大怪我ですがスポーツ動作や交通事故では度々見られます。
特にスポーツをされている方々にとっては大きな怪我になりますので、捻ったなどの受傷起点がある方はすぐに相談に来てください。
私たち神戸市東灘区の整形外科 おかだ整形外科は真摯に向き合い治療しています。
理学療法士 牧 将平