野球肘について
2023/07/23
概要
野球肘とは、投球動作を繰り返すことによって引き起こされる肘関節障害の総称です。
離断性骨軟骨炎や骨端軟骨損傷、靭帯損傷など複数の病名を包括的に含む病名です。
また、野球肘の障害部位は肘の外側、内側、後側の3つに大きく分けられ年齢によって損傷される部位が異なるという特徴があります。
特に多いのは、成長期のある子どもたちに起こり肘関節障害として代表的なスポーツ障害・ケガと言えます。
原因
野球肘の発症要因としては、成長期や身体バランスの左右差、姿勢異常、筋肉の柔軟性低下、関節可動域の低下、弛緩性(緩さ)、練習内容や練習頻度、試合間隔、投球数などが考えられています。これら多数の要因を踏まえた上で投球フォームが深く関与することが知られています。そのため野球肘は投球動作を繰り返すことで発症します。
肘関節には多数の骨や軟骨、靭帯、腱などが存在しますが、投球動作を繰り返すことで負担がかかります。
肘関節内、外側や後方で骨同士がぶつかることで骨・軟骨が剥がれたり痛んだりします。また靱帯・腱も牽引される事で損傷します。
投球動作で骨軟骨に障害を受けるのは、成長期である小児にみられることが多いです。
違和感や疼痛を放置し、進行してしまうと変形性肘関節症を引き起こす可能性があります。これは股関節や膝関節のように中高年以降に起こる関節障害です。肘関節の軟骨がすり減ることや骨にも変形をきたします。
成人でも野球肘を生じることはあります。
成人の場合は、骨軟骨に障害を受けるよりも肘関節を構成する靭帯が損傷を受けることが多いです。
症状
投球動作時や投球後に肘関節に痛みを生じます。
症状としては、損傷を受けた場所に応じて痛みを感じます。また肘関節に可動域制限を生じたり、突然動かせなくなること(ロッキング症状)もあるため注意が必要です。
子どもの野球肘
子どもの骨は未成熟で発育途上のため、弱くて傷つきやすく、骨が成熟した大人には起きない障害が起こります。特に成長期である10~12歳頃に発生しやすく、この時期は特に注意が必要です。
肘関節外側型野球肘
肘関節の外側にある小頭という部分の障害です。離断性骨軟骨炎とも呼ばれます。発生する頻度は100人に1~3人程度です。
初期に発見し治療すれば、完全に治癒します。
しかし、初期は痛みがあまりなく、痛みを生じても軟骨損傷までに長期間(1~2年程度)かかるため、本人含め周囲も気が付かずに投球を続けてしまいます。
痛みを生じ、病院を受診した際に重症の場合は手術を検討することもあります。
肘関節内側型野球肘
肘関節内側上顆という部分の障害です。内側の靱帯が骨についているところが、くり返し牽引され骨・軟骨が傷つきます。
野球肘のなかでも発生頻度が高く、10人に1~3人程度の割合で起こります。 通常は2~4週間の投球中止で復帰できます。高校生以上では内側靱帯損傷を発症することも多く、重症な場合は手術が必要になることもあります。
肘関節後方型野球肘
肘関節の肘頭という部分の障害です。
小中学生には多くなく、高校生以上で生じることが多いです。
投球動作ではボールリリースからフォロースルーの際に肘関節の後側・内側に痛みを生じます。肘関節伸展時(伸ばすとき)にも痛みがあり、肘関節を伸ばしにくくなります。通常は2~4週間の投球中止が必要で、それでも治らない場合は手術が必要になることもあります。
検査・診断
投球時の肘関節へよ痛みや可動域の低下などの症状がある場合には野球肘が疑われます。
野球肘は、肘関節のどの部位が損傷しているかなどを診察にて評価します。
また、実際にどの部位が損傷を受けているのか確認するために、レントゲン撮影や超音波検査、CT検査、MRI検査などの画像検査を行います。
治療
具体的な治療法としては保存療法と手術療法があります。
程度が軽度の段階(初期-中期)であれば、保存療法である投球動作休止をし、その期間中に"なぜ生じたか"を考えてリハビリテーションを行います。
しかし、野球肘では症状や病状の進行状態、選手環境などによっては手術が勧められることもあります。
リハビリテーション
野球肘のリハビリテーションでは、生活指導など安静指示と運動療法では肘関節不安定性の軽減のため、肘関可動域制限改善や筋力増強が必要不可欠です。また、投球動作の改善も図っていきます。そのため、肘関節はもちろんですが肩関節や手関節、脊椎や股関節、足関節など全身の状態も診ながら投球の負担を減らしていきます。
しかし、野球肘の治療でもっとも重要なのが患部の安静で、具体的には、投球制限を行います。野球肘は投手に多く、肘を痛めながらも投球動作を継続している場合も少なくありません。チーム関係者の理解が重要です。
手術療法
具体的な手術方法としては、以下が挙げられます。
・骨穿孔術(ドリリング)
初期の軟骨が剥がれていない無分離例に対して行います。骨軟骨片への血流改善を図るために行います。
・骨釘固定術
遊離した骨軟骨片を取り出し、遊離した骨軟骨片を自分の骨で作った釘(骨釘)や生体吸収性の人工ピンで固定するか新たな骨ができるようにする方法。
・骨軟骨柱移植術(モザイク形成術)
骨軟骨片が変性して癒合しそうもない場合(分離期後期~遊離期)はこれを切除します。
欠損した部分には膝関節から骨軟骨を円柱状で採取して肘関節に移植します。
そのほか、靭帯損傷に対してはトミー・ジョン手術と呼ばれる方法が選択されることもあります。治療方法は、損傷を受けている部分などによっても異なります。
終わりに
以上が野球肘についてです。
スポーツの中でも人気のある野球ですが、ボールを投げる動作は非常に負担がかかる動作です。
特に成長期では様々な身体構造の変化が著しい時期です。しっかりと予防、ケアを行いましょう。
また少しでも違和感をあればすぐに受診しましょう。その早期の決断が大きな怪我を防ぎます。
私たち神戸市東灘区の整形外科、おかだ整形外科は真摯に向き合い治療しています。
理学療法士 牧 将平