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上腕骨外側上顆炎について

2022/07/31

はじめに

 タオルを絞る動作やドアノブを回す動作や蓋を開ける動作で肘関節の外側に痛みを感じることはありませんか?

その症状は上腕骨外側上顆炎、いわゆるテニス肘かもしれません。自分はテニスをしていないのにテニス肘?と思われる方もおられるかもしれません。

今回はテニス肘(上腕骨外側上顆炎)について記載したいと思います。

 

概要

 テニス肘とは、肘関節の外側から手関節にかけて走る筋肉(短橈側手根伸筋)の付着部に炎症が起き、痛みが現れる病気です。医学的には上腕骨外側上顆炎と呼びます。好発年齢は30歳代後半〜50歳代で、それ以下での若年層では頻度が少ないです。その発症に関してはやや女性に多いとする報告も多いですが、治療に関する検討では男性が多いという報告もあり一定の見解を得れていないのが現状です。

 また上記したように「テニス肘」という総称から、発症原因がテニスと関連しているのかと疑問を持つ方は多いと思います。実際、テニスプレーヤーにおける発症率は30~50%と高い確率で、特に硬式やプロレベルになると60%を超える選手が経験していると言われています。しかし、554例の外側上顆炎を解析した報告によると最も多くみられた発症原因は重量物の運搬で38%なのに対して、テニスは10%強と比較的低い結果の報告もあります。つまり必ずしもテニスをされている方が症状として診られる訳ではないとのことがわかります。当クリニックにもテニスをされている主婦や小中高生よりも日常生活の中での痛みを訴えられた方やパソコン業務の方も多く来院されています。症状が進行すると日常生活の中での痛みが強く支障をきたすことも診られます。

 治療は主に保存的治療(薬物療法や運動療法、物理療法などの理学療法)が行われ、まずは手関節を動かす筋肉にストレスを減らすよう安静にすることから始めます。また、テニス肘は症状が落ち着いても再発することが多いため、治療後も予防策を行うことが大切です。

症状

 テニス肘は安静時に痛みはあまりみられません。手関節をそらす動作(背屈=手の甲をそらす動作)や手関節を内外に捻る動作(前腕回内外)、指を伸ばす(手指伸展)といった動作で肘関節の外側に痛みが起こることが大きな特徴です。

 日常生活では物をつかんで持ち上げる動作、ドアノブを回す、キーボードを打つ動作で痛みを感じます。症状の現れ方は個人差が大きいです。

 上記しましたが安静時に痛みは診られません。ただ、腕は日常生活でよく使います。特に聞き手に症状が出た場合などは、症状が進行し安静時にも痛みがみられるようになる可能性もあります。

原因・メカニズム

 一般的には、加齢とともに腱が傷んで起こるとされていますが、原因についてはまだ十分にわかっていないのが現状です。

 メカニズムとしては、上腕外側上顆には手関節を動かし、指を伸ばすための前腕の筋肉(短橈側手根伸筋、長橈側手根伸筋、総指伸筋など)が重なるように付着しています。その筋肉の中の短橈側手根伸筋という筋肉の付け根部分(腱)に炎症が起きたものがテニス肘です。腱に負担がかかり、細かい亀裂や炎症が起きて痛みが起こると考えられています。

 

※ちなみに・・・

 テニスのバックハンドストロークとキーボードを打つ際のストレスのかかり方は似ています。

 バックハンドストロークはボールを打ち返す際に誤動作として手首を反らす(背屈)動作を過用することで、ボールの外的なストレスとバックハンドストロークでのストレスで短橈側手根伸筋付着部にストレスが生じてテニス肘となります。

 キーボードを打つ動作は、手首を反らす(背屈)ことで指の筋肉を使いやすくする腱固定作用を利用しキーボードを打っています。

短時間であればストレスとして軽度ですが、長時間ともなるとストレスとしては大きなストレスになります。

つまり、前腕の筋肉(特に短橈側手根伸筋)にストレスがかかるという点では共通しています。

 

検査・診断

 テニス肘は、身体診察におけるテストから診断されます。代表的なものには、Thomsenテスト、Chairテスト、中指伸展テストの3つが挙げられ、いずれのテストも動作に関連して肘の外側の痛みを確認します。このほか、筋肉の状態やほかの病気との鑑別のために、必要に応じてX線検査(レントゲン)やエコー検査などが行われます。レントゲン写真は多くの場合、異常所見は認めませんが、ときに腱が付着する部位の骨に病的な変化(骨棘など)がみられることがあります。

 

・Thomsenテスト

肘を伸ばした状態で患者さんの掌を下にした状態(回内)で手首を反らしてもらいます。医師は患者さんが反らした手首(背屈状態)に抵抗を加えます。

このときに肘の外側に痛みを感じるようであれば検査陽性と判断されます。

・Chairテスト

肘を伸ばし掌が下の状態(回内)のまま患者さんに椅子を持ち上げてもらいます。このときに肘の外側に痛みを感じるようであれば、同じく検査陽性です。

・中指伸展テスト

肘を伸ばしたままの状態で掌を下にし、医師が患者さんの中指に抵抗を加えます。患者さんには指全体を伸展してもらいますが、このときに肘の外側に痛みを感じるようであれば上腕骨外側上顆炎と診断されます。

治療

 治療はまず保存療法を中心に行います。保存療法を実施後半年程度で改善ない場合は再度、検査し手術療法を行う場合もあります。

 

保存療法

 原因となる動作やスポーツの一時中止も含めた患部の安静、ストレッチ、薬物投与、装具着用などがあります。

テニス肘が起こる要因は、患者様の身体状況から診て使いすぎ(オーバーユース)によるものが多く、少し作業を控えるとともに、手首周辺の筋肉のストレッチを行います。痛みが強い場合などには湿布や外用薬の処方が検討されるほか、肘の外側にステロイドの注射が検討されることもあります。また、作業を行うときには専用のベルト(装具)を装着します。

 特に理学療法や薬物療法はガイドラインでも推奨度が高くgrade Aとなっており、ストレッチや超音波などを組み合わせて行うことが多いです。

短期的にはステロイド療法の局部注射、長期的には理学療法が有用であると考えられています。

手術療法

 症状が進行し、上記のような保存療法(薬物療法や理学療法)では改善が見られない場合には手術を行うケースもごくまれにありますが、術後の経過が一定せず、手術を勧めることはあまりありません。手術は主に、短橈側手根伸筋の骨に付いている部分を直接切除する「open法」と、関節鏡を使って関節の中から切除する「鏡視下法」の二つの方法があります。

予後

 ガイドラインによると治療群と無治療群を比べると前者のほうが改善が早い傾向にあり、治療内容に関係なく6ヶ月以内に90~95%で改善が得られるとされています。その中での予後が悪い(回復までの期間を要する)のは上肢(腕)使用頻度が高い症例で、治療後早期に手作業を行った症例や競技レベルの高い症例は再発率が高いとされています。また、テニスを始めた年齢が高いほど罹病期間が長い傾向があるとされています。

終わりに

 今回はテニス肘(上腕骨外側上顆炎)について紹介しました。

上記しました通り、テニス肘は当院、神戸の整形外科 おかだ整形外科でもテニスをされている方よりも一般的な日常生活で酷使されている方が多い印象です。肘の外側に違和感が生じたり、痛みが生じた場合には迷わず相談に来られてください。

予後の項目にあるように早期治療により痛みの改善する可能性が高くなります。

 

※日本手外科学会「手外科シリーズ7」より画像を引用しています。

 

理学療法士 牧 将平