腱板断裂について
2023/05/22
概要
今回は肩関節の怪我である腱板断裂について紹介したいと思います。
肩関節には腱板と呼ばれる4つの筋腱が集まった部分があります。腱板は肩関節を安定させ動かすために重要なものです。肩腱板断裂は、この腱板の一部もしくは全てが断裂することで肩関節の可動域が制限されたり痛みが生じたりする怪我のことです。腱板は、肩甲骨と上腕骨との間では挟まれやすい位置にある構造になっています。そのため肩腱板断裂は人体の構造上起こりやすく、注意する必要がある怪我です。
肩関節とは
上腕骨、肩甲骨、鎖骨の3つの骨から構成されています。肩関節は球状の上腕骨頭と浅い受け皿状の関節窩から構成されています。
浅い受け皿に対して大きい球状の上腕骨頭にて関節を構成するため、肩関節は不安定性が強いというデメリットがあります。しかし、腱板は不安定な関節を安定させる役割を持っています。また、腱板は肩関節のメリットでもある自由度の高い動きをする際に重要な働きをします。
腱板と骨の間には滑液包があります。滑液包とは肩関節を動かす際に腱板が効率よく働けるように助ける役割をします。腱板断裂では滑液包に炎症が生じ痛みの原因になることもあります。
原因
断裂の仕方は大きく2つあり、急性断裂と変性断裂があります。
この2つに共通するのは、40歳前後から腱板の老化が始まり腱板の変性が背景にあり強度低下による断裂の危険性が高まっていることです。
ちなみに40歳までは 5.1% 、70歳台では 45.8%,80歳台では 50%と年齢が上がるにつれてリスクは増加します。
・急性断裂
転倒や転落、交通事故、重量物を持つ際などで急激に腱板にストレスがかかった際に生じる可能性があります。
肩鎖関節脱臼や肩関節脱臼などの怪我と同時に腱板断裂が生じることもあります。
・変性断裂
多くの腱板断裂の場合は変性を伴い経過していく中で生じます。腱板の変性は老化も原因の1つです。
腱板断裂の多くは使用頻度の高い利き腕に発症します。また、一方の肩に腱板断裂がある場合には反対側の肩の腱板断裂が隠れている可能性があります。
変性断裂の原因
・反復動作
野球(投球動作)やテニス、水泳など肩関節を頭より上で使用する動作を繰り返すスポーツは腱板断裂が生じる可能性が高まります。
また日常生活内で洗濯や物干し、布団の上げ下ろしなどの家事も原因となりえます。
・循環障害
年齢とともに腱板に対しての必要な血流量が減少すると考えられており、栄養障害が生じることで腱の変性を加速させてしまいます。
また高血圧や糖尿防、喫煙も血流低下が生じ腱板変性となり腱板断裂の危険性が高まります。
・骨棘(骨のとげ)
肩関節を日常生活などで使用し、ストレスが生じていると骨棘(こつきょく)という骨のとげが生じます。
その骨棘がが大きくなり、腕を動かした際に骨棘と上腕骨が衝突することをインピンジメント現象と呼んでいます。
そのインピンジメント現象を繰り返していると腱板は肩甲骨と上腕骨の間にもあるため、腱板断裂の危険性が高まります。
断裂分類
腱板断裂の多くは棘上筋腱に発生します。その他3つの腱板に断裂を生じた場合は、重症なことが多く、腕が上がらないことが多く見られます。
腱板断裂の多くは、腱の小さいほつれから生じます。その小さなほつれがある中で重量物を運ぶ時や転んだ際に腱が完全にちぎれ、完全断裂となります。
・不全(部分)断裂
腱板の表層、もしくは裏側の一部に亀裂が入った状態で腱と上腕骨は連続しています。亀裂が広がると完全断裂となります。
①関節面断裂:関節側からの部分断裂。
②腱内断裂:関節面断裂に連続する断裂。
③滑液包面断裂:滑液包側からの部分断裂。
・完全断裂
腱板の表層から全層にわたり生じる断裂で腱が上腕骨から離れた状態です。腱板に穴が開いたように見えます。
①大断裂:断裂範囲が2つ以上の筋腱にわたるもの。
②広範囲断裂:断裂が更に大きく、腱性部分がほとんど消失し、上腕骨頭全体が露出したもの。
症状
肩関節の運動障害、運動痛・夜間痛を訴えますが、受診する1番の理由は夜間痛によって睡眠がとれないことです。
運動時痛は症状の訴えとしてよく聞かれますが、多くの患者さんは肩関節の挙上は可能です。
肩関節がまったく上がらないということはなく、腕を前方や側方から上げようとすると痛い・力が入らない・すりつぶすようなジョリジョリやゴリゴリという音(礫音)がするという症状が起こり得ます。また腱板筋である棘上筋や棘下筋の筋萎縮が出現します。
五十肩(肩関節周囲炎)とは異なり、関節拘縮(関節の動きが固くなること)は少ないと報告されています。変形性肩関節症や頸椎症性神経根症の症状と見分けが難しい場合があります。
検査・診断
診察にて、筋力低下していないかやどのような動きで痛みが出現するかなどについて確認します。また、単純レントゲン(X線)やMRIなどの画像検査を行う場合があります。レントゲンでは、肩甲骨と上腕骨との間(肩峰骨頭間距離)が狭くなっていたり、肩甲骨部分に骨棘ができており確認することが可能です。MRIでは断裂した腱板が確認することが可能です。
治療
・完全断裂の治療方針
70歳以上の患者で鎮痛薬を必要とする夜間痛を認める場合は手術を考慮しますが、夜間痛がなければ手術の適応は少ないです。
しかし、腕を上げて仕事をする場合は手術の適応となることが多いです。そのほか、断裂の大きさや発症後の期間、筋萎縮の程度なども治療方針を決める参考となります。
・不全断裂の治療方針
原則として3〜6か月以上の保存的治療を行い、症状が改善しなければ手術を検討します。
腱板が一部でも切れると自然治癒はないとされています。外傷が原因で発症した場合は三角巾で吊って1~2週間肩を安静にします。
安静にすることで腱自体は治癒することは可能性として低いですが、他腱板の機能が活発となり疼痛や可動域制限が改善することもあります。
痛みに対して炎症を抑える薬や痛み止めを肩関節内に注射することもあります。
また、痛みが軽減してきたら、リハビリテーションにて運動療法を行います。
保存的に治療し、痛みや可動域制限(拘縮)が改善しない場合は、手術を行い、断裂した腱板を縫合します。
現在では、関節鏡という細い管を関節に入れて行う鏡視下鍵板修復術が普及してきています。
しかし、大断裂のような場合は関節鏡ではなく直接目で見て行う手術(オープン法)の方が縫合しやすい場合があります。
また、縫合が困難な症例ではリバース型人工肩関節という特殊な人工関節を用いると、腱板が完全に機能しなくなっている方でも腕を上がるようにすることが可能です。
術後予後
大多数の患者さんは筋力や痛みが改善します。また、それぞれの手術方法で痛みや筋力の回復に大きな差はないと言われています。術後成績を悪化させる要因は、腱の状態が不良や断裂のサイズが大きい(3cm以上)、術後の安静指示を守れない場合、高齢(70歳以上)、高血圧や糖尿病など、喫煙者と言われています。
終わりに
今回は、肩関節腱板断裂について記載しました。腱板断裂は痛みが生じると日常生活に支障をきたす可能性もあります。特に40歳以降は些細なことで生じる可能性があります。その僅かな損傷もいずれは大きな怪我に繋がるかもしれません。日常生活上での肩関節の違和感や痛み、夜間痛、生活に影響する可動域制限や筋力低下などございましたら気兼ねなくご相談ください。
私たち神戸市東灘区の整形外科、おかだ整形外科は真摯に向き合い治療しています。
理学療法士 牧 将平