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人工肩関節置換術について

2023/06/11

 今回は、前回の腱板断裂の治療手段の1つである人工肩関節について紹介したいと思います。

人工膝関節や人工股関節と比較するとなかなか聞いたことのない手術方法だと思いますのでぜひ、読んで見てください。

概要

 人工膝関節置換術や人工股関節置換術は世間で耳にすることも多くなりましたが、人工肩関節置換術も関節痛の緩和や肩関節機能の改善に効果が見られます。

人工肩関節にはいくつかの種類があります。損傷範囲や年齢などを考慮して手術方法を選択します。

鎮痛剤や日常生活活動に影響が生じる場合、運動療法などのような保存的治療が有効でない場合は、肩関節置換手術を検討する必要があります。

解剖

 肩関節は3つの骨で構成されています。上腕骨、肩甲骨、鎖骨の3つです。 上腕骨(上腕骨頭)と肩甲骨(肩甲骨関節窩)にて肩関節を構成しています。

両者は関節包や靭帯により連結されています。関節表面は関節軟骨に覆われており、軟骨はスムースに関節が動くために必要であり、骨の破壊を防ぎます。

関節内表面は薄い滑膜に覆われており、滑膜によって少量の滑液を作り、この滑液も関節の動きをスムースに行うためには必要です。

肩関節周囲の筋肉や腱は関節の安定に関係しています。

人工肩関節置換術とは

 人工肩関節置換術では、肩の損傷部分が切除され、金属性のインプラントに置き換えられます。上腕骨頭部、または関節窩の両方の交換する場合と上腕骨頭のみ交換する場合があります。

①人工骨頭置換術

 簡単に説明すると肩関節を構成する上腕骨頭のみを人工物に置換するものです。この方法を人工骨頭置換術といいます。人工骨頭の種類は年齢や骨の状態、症状によって選ばれます。

②全人工肩関節置換術

 全人工肩関節置換術は上腕骨骨頭と関節窩の両方を置換します。

全人工関節置換術は、耐久年数は15年以上と言われており、後述するリバース型人工肩関節置換術とは違い、腱板筋は状態が良いため術後はこの腱板筋をしっかりと運動療法を行うことが大切です。また置換するインプラントは、さまざまな体格の患者さんに対応するためのサイズが多く用意されています。

③リバース型人工肩関節置換術

 1985年にフランスで関節窩をボール状にし上腕骨頭側をソケット型にしたリバース型人工肩関節置換術が開発されました。その後、徐々に改善が加えられて日本では2014年4月に認可となりました。腱板が修復困難で機能改善が望めない場合に検討され、腱板筋の力がなくとも三角筋の力で挙上が可能となり、関節の安定化と挙上動作の改善が期待できます。

手術後の流れ

 人工骨頭置換術、全人工肩関節置換術の術後プロトコル

 

人工骨頭置換術と全人工肩関節置換術の後療法に大きな違いはありません。両手術方法ともに肩関節内の腱板機能は残存しているため、腱板筋による関節安定性を期待できるためです。術後は1〜2週間は創部の安静のために三角巾などを用いますが、痛みに応じて除去することもあります。詳細は下記です。

 

【術後1日〜2週間】

・肩甲骨の挙上、内転運動

・肘関節以遠の自動関節運動

・肩甲骨のモビライゼーション

・肩甲骨周囲筋の等尺性収縮、等張性運動

・肩関節内外旋中間位での他動ROM運動開始

 

【術後3〜6週間】

・徐々に自動介助運動を開始、必要に応じて振り子運動を実施。

・内外旋他動運動開始(肩甲下筋の縫合が行われているため過度な外旋を避ける)

・徐々に自動運動へ移行

 

【術後7週間移行】

・肩関節外旋、内旋の抵抗運動開始

 リバース型人工肩関節置換術の術後プロトコル

 

リバース型人工肩関節の術後プロトコルは大きく分けて、①関節保護期、②可動域拡大期、③総合的肩関節機能獲得期、④ホームエクササイズ期の4つの時期に分けられる。

 

1)関節保護期(1〜6週)

 三角筋の筋緊張緩和と軟部組織の修復目的に3週間程度の外転装具固定期間が設けられます。リバース型は腱板筋がないため関節の安定性は低く、全人工肩関節に比べて脱臼リスクは高い手術です。脱臼肢位は結滞動作であり、術後6週間は軟部組織の修復を意識した可動域運動が必要です。特に装具固定期間中はベッド上安静時や動作時に肩関節伸展位にならないように患者様への指導を行います。

 

【術後1日〜3週間】

・肩甲骨の挙上、内転運動。

・肘関節以遠の自動関節運動。

・肩甲骨のモビライゼーション。

・肩甲骨周囲筋の等尺性収縮、等張性運動。

・肩関節内外旋中間位での他動ROM運動開始(屈曲120°、外転90°まで)。

 

【術後3週】

・徐々に自動介助運動を開始。必要に応じて振り子運動の実施、内外旋運動を開始します。

 

【術後4〜6週】

・装具除去。

・装具除去直後は三角筋の過緊張により上腕外側部に痛みを生じる可能性があります。

 

2)可動域拡大期(7〜9週)

・肩関節内外旋の抵抗運動開始。

・重力除去位での屈曲(側臥位)、外転運動(背臥位)から徐々に座位での抗重力位での運動に移行する。

・術側での食事、軽度の日常生活動作を許可していく。

 

3)総合的肩関節機能獲得期(10〜12週)

 

【術後10週〜】

・徐々に日常生活活動の動作獲得に向けて肩甲骨周囲筋と三角筋との協調性を意識した筋力運動を少しずつ増やしていく。

*ただし日常生活活動獲得が目的のため、必要以上に筋力運動を行われないこと。リスクとしては肩峰下骨折の可能性があるためです。

 

4)ホームエクササイズ期

 

【術後13週以降】

リバース型は三角筋と同様に肩甲骨周囲の筋機能や可動域が重要です。そのためホームエクササイズとしては肩甲骨の可動性を維持するような運動は継続していく必要があります。

 

※目安の術後プロトコル。

終わりに

以上が人工肩関節置換術についてです。

世間一般では有名な手術方法ではありませんが、肩の痛みをとるための選択肢の1つです。

まずは肩関節に違和感があれば受診してみてください。

私たち神戸市東灘区の整形外科、おかだ整形外科は真摯に向き合い治療しています。

 

理学療法士 牧 将平