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肩関節脱臼について

2023/08/15

概要

 肩関節脱臼とは、肩甲骨関節窩(肩甲骨の受け皿)から上腕骨骨頭(上腕骨)が外れた状態のことです。

肩関節脱臼はスポーツや転倒などをきっかけとして発症すること(外傷)が多く、一度受傷したことで何度も繰り返しやすくなります(反復性脱臼)。

 治療には、保存療法と手術療法があります。治療方針は、肩関節脱臼の程度や患者さんの年齢や性別、日常生活などを考慮します。

肩関節とは

 肩関節は鎖骨、肩甲骨、上腕骨頭で構成されています。肩甲骨には、関節窩と呼ばれる窪みがあり上腕骨頭がおさまる部分となります。上腕骨頭と関節窩は「テニスボールと盃」、「ゴルフボールとティー」などの関係に例えられるほど、大きな差があります。

そのため、肩関節の安定性には関節窩の深さが大切と言われています。関節窩の深さを補うように関節唇という軟骨があります。この関節唇があることで安定性が40%程度向上すると言われています。

 上記構造があっても肩関節は広い可動域を持つ反面、関節としての支持性が低い関節となります。そのため肩関節は脱臼しやすく、全関節脱臼の約50%を占めています。

原因と病態

 肩関節脱臼の原因は、転倒やスポーツによる外傷が多いです。外傷による肩関節脱臼は、ラグビーやアメフト(タックル)、柔道(受身)、野球やソフトボール(ヘッドスライディング、ダイビングキャッチ)サッカーやバスケットボール(接触プレイ)などのコンタクトスポーツでよく発症します。また交通事故や日常生活動作での転倒で強い外力が生じた際にも発症する可能性はあります。

 若年男性と高齢女性に多く、年齢での発症頻度は10-29歳(10万人あたり1年に約45人)と、80-89歳(10万人あたり1年に約30人)の2峰性にピークがあります。また外傷性脱臼後、10歳代では90%以上、20歳代では80%が反復性脱臼へ以降し、特にスポーツをしている活動性の高い若年者では再脱臼率が高いと言われています。

 肩甲骨に対して、上腕骨が前方に外れてしまうことを前方脱臼、後ろに外れてしまうことを後方脱臼、下方に外れることを下方脱臼と呼びます。肩関節脱臼は97-98%が前方脱臼と報告されており、後方脱臼が2-4%、下方脱臼はまれで0.5%と報告されています。

症状

 肩関節脱臼を発症すると強い痛みを感じ、動くことができなくなります。脱臼した際には骨がずれるだけではなく、関節唇損傷や靱帯損傷、神経損傷(腋窩神経など)をするなど、周囲組織には強いダメージがかかります。また反復性脱臼の場合は、不安定感も大きな症状の1つです。

検査・診断

 肩関節脱臼では、スポーツが要因での肩関節を動かせないほどの痛みを感じている場合は脱臼の可能性を考え、レントゲン検査を行います。レントゲン検査にて関節を描写し、肩甲骨窩と上腕骨頭の位置を確認した際に骨折が疑われる場合はCT検査を行い診断します。肩関節脱臼では、レントゲン検査で一目瞭然となる場合が多いのです。特に前方脱臼では、はっきりと骨のずれが描写されます。脱臼に骨折を伴う場合も多く、レントゲン検査での評価が重要です。レントゲンで診断がつくことの多い肩関節脱臼ですが、後方脱臼には注意が必要です。

 後方脱臼では、レントゲン正面像で骨頭のずれをはっきりと描写されないため最大50%の患者さんでレントゲン検査での診断が難しかった(できなかった)という報告もあります。

治療

 治療では、まず骨の位置を元に戻す整復を行います。上腕骨の位置を正しい状態に導いていく方法で、整復にはさまざまな方法があります。上腕を挙上して引っ張る方法、うつ伏せに寝て重りを腕にぶら下げる方法などがあります。他にも肩を外にひねる方法や、肩甲骨を徒手的に操作する方法など数多くの方法が考案されています。患者さんの状態や医師の治療方針に適したやり方を選択します。受傷後早期であれば麻酔なしで問題なく戻せることが多いです。しかし、痛みが強いため脱力できない場合や戻りづらい場合には局所麻酔、または全身麻酔(鎮静)が行われます。無理な力をかけることは骨折や周囲組織の損傷の恐れがあるため、注意しながら治療が行われます。救急科の医師による肩関節脱臼の治療成功率は、90-95%という報告があります。日本の場合は救急科、もしくは整形外科の医師により治療されるケースが多いと思われます。複数の医師が治療に関わることで、治療の成功率はより高いものになると考えられます。

 整復後に考慮される治療方法は、腕の固定やリハビリテーションで回復を図る保存療法と手術療法の二通りがあります。

 保存療法では、腕を固定して剥離した関節唇を圧着させて修復されるのを待ちます。10歳代-20歳代の患者さんでは、脱臼した方の80-90%が反復性脱臼に移行する可能性があるため、慎重な経過観察が必要です。一般的には3週間程度の固定処置が行われます。固定の仕方にも複数方法が提唱されていますが、はっきりと優れた方法は示されていません。肩関節脱臼を起こさないようにするためには、リハビリテーションによる肩甲骨の可動性や肩関節のインナーマッスルの強化、体幹筋強化も必須です。

 手術療法では、骨折を伴う場合や受傷後から経過した場合(2-3週間など)が代表的です。脱臼した状態では機能の回復を望むことはできないため、手術を行い脱臼を戻す治療が行われます。骨折など他の損傷を合併している場合、合わせて修復されることがあります。また、20歳未満など若い方では脱臼した後に反復性脱臼になる確率が非常に高いことから、コンタクトスポーツなどをする方などは、一回でも脱臼したら整復がうまくいっても再脱臼を防ぐために手術が必要だという意見があります。しかし一方でまずは固定して様子を見るべきだという意見もあり、現時点では一致した見解は確立されていません。

手術の種類

 手術が必要な場合、肩関節脱臼に対する制動術を行います。 大きく分けて、3つの方法があります。

 

・Bankart修復術

 肩関節の脱臼により、肩甲骨関節窩の前下方にある骨や関節唇が剥がれる事をBankart病変と言います。この病変を修復する手術をBankart修復術と言い、最近で      

は鏡視下での手術が主流となっています。関節窩欠損が大きい場合、関節窩への骨移植など他の術式を検討します。

 

・Bristow法

 肩甲骨上方にある烏口突起を切離し肩甲骨関節窩前方に移行する手術です。関節外での共同腱によるスリング効果や肩甲下筋の緊張による脱臼防止効果で健常肩よりも強い脱臼防止効果、さらにBankart修復術を加え、より高い制動効果を期待できます。

・Latarjet法

Bristow法のように肩甲骨上方にある烏口突起を切離し、肩甲骨関節窩前方に移行する手術です。肩甲骨関節窩の欠損が多い場合に適応となり、骨の移行方法がBristow法と異なります。

終わりに

以上が肩関節脱臼についてです。

外傷で多い怪我です。特に再発が多い怪我でもあります。

過去に受傷したことがある方は特に違和感が生じたらすぐに受診しましょう。

私たち神戸市東灘区の整形外科、おかだ整形外科は真摯に向き合い治療しています。

 

理学療法士 牧 将平